最上のサービスに繋がった危機管理能力(平成20年5月分)

更新日:2020年10月01日

おはようございます。5月1日、新緑の美しい季節になりました。今月の月いちメッセージをお送りします。
先般、松岡浩さんという方の講演を聴きました。松岡氏は?タニサケの会長で、ユニークな経営論で全国的にも知られた方です。
その講演で凄すごい、と感じた話がありますので、お伝えしたいと思います。
新宿行きの路線バスの中での出来事。時刻は夕方。道路は渋滞。バスの中は満員。立っている乗客は皆疲れている。車内の暑さのせいか、突然赤ちゃんが泣き出した。母親が必死であやすが、ますます火がついたように泣き叫ぶ。ただでさえ険しい乗客たちの顔が余計にきつくなってきた。バスはやっと新宿三丁目に着いた。しかし降りる人はわずか。そんな中、後ろのほうからあの赤ちゃんの泣き声が、だんだん前のほうに近づいてくる。「すみません、すみません」人ごみをかき分け、赤ちゃんを抱いた若い母親が運転席のところまで来た。小銭を出そうとしている。運転手は聞いた。「もしもし、こちらで降りるのですか」「いえ、実は新宿まで行きたいのですが、子どもが泣くので申し訳ないと思って。」
すると、その運転手はマイクを持ってアナウンスを始めた。「皆さま、大変お疲れのところ申し訳ありません。今泣いている赤ちゃんのお母さんが、申し訳ないのでここでバスを降りるとおっしゃっています。ですが、新宿まではまだ遠とおございます。皆さま、赤ちゃんは泣くのが仕事です。お疲れのところ恐縮ですが、お母さんと赤ちゃんのためにも、どうか新宿駅まで、温かく見守っていただけませんでしょうか。」
運転手のこの一言で、乗客の険しい顔がなごんだ。それどころか、後ろのほうから温かい拍手が起き、そして車内全体に広がったのである。「ありがとうございます、ありがとうございます。」母親は何度も感謝の言葉を述べていた…と、このようなお話であります。
松岡氏はこの講演を通じて、「相手に対して最上のサービスを提供しよう」というお話をされました。その例えとして、ご自身が体験したこのお話を披露されたのですが、私はこれを聞いて、そのストーリーに感動すると同時に、実はこの運転手の危機管理能力は凄い、これこそプロだ、と思ったのであります。
安全にお客様を送り届けるのが運転手の第一の使命です。ですが、ただお客を運べばよい、という意識では、このお母さんがバスをやむなく降りようとしても、おそらく声も掛けないでしょう。結果、お母さんはバスから降り、他の乗客も一時は静かになったと思いながらも、混雑そして渋滞が続く中、不満の感情が続いたままになります。
あるいはこの運転手が、バスの中の雰囲気を和やかにすることの必要性は分っていても、単なる事なかれ主義の人間であれば、お母さんがやむなくバスを降りることを告げたとしても、「そうですか、すみませんね」の一言で、内心は「ああ、余計な者がいなくなって良かった」と思うのが関の山です。そしてこれはお客様への一種の背信行為です。
しかし、この運転手は違いました。お客様が快適に過ごせるよう、閉じられた空間であるバスの中の雰囲気を、普段はもちろん、渋滞や車内の混雑、そして緊急の方がいるときでも、常にお客にとって最上の状況にすることが自分の使命だという、心構えが出来ていたのでしょう。しかも凄いのは続いて「赤ちゃんは泣くのが仕事です」という言葉が出てきたこと。実は乗客は仕事帰りで疲れているのです。単に「みなさん、我慢してください」だけでは説得力に欠けるのです。そこで「みなさん仕事でお疲れ様です。赤ちゃんも仕事中なのでご理解を。」こう言われたら怒る人はいません。これは思いつきではなく、おそらくこの運転手が、常に相手の立場に立って物を考える心構えが出来ている人だったからこそ、ユーモアと説得性のある言葉が出てきたのでしょう。この言葉一つで、乗客全ての心が、満員バスの苦痛から「そうだよな、俺達が温かく支えてあげよう」という、感動的な一体感に変わったのです。
この運転手は、常に自分の職業に対して真剣に向き合い、職責を果たすために、的確な状況判断と、状況を改善する意志と実行力を身につける努力、そして、相手の立場に立って物を考える努力を重ねてきたのでしょう。まさにこういった積み重ねが、いざというときの危機管理能力につながるのであると思います。
実は世の中で起きる失敗とは、そのほとんどが危機的状況への判断の誤りからくるのであって、その原因は、第一に当事者の、自分の仕事に対する心構えが出来ていないことに尽きるようです。心構えといっても、それは何も特別な鍛錬をしたからといって出来るものではありません。そうではなく、自分のおかれた環境の中で、職責から逃げることなく、問題を放置することなく、判断材料を元に自ら判断し、それをキチンと他に説明出来るかどうか、つまり、普段の仕事にしっかり打ち込んでいるかどうか、が問われるのではないでしょうか。しかも一人で危機は回避できないことが多い。やはり多くの人にその状況を知らしめ、共に乗り越える動機付けをするためには、常に相手の立場に立って物を考える心構えが出来ているかどうか、が問われるのではないでしょうか。
今の時代は何が起きるか分りません。今後とも市役所全体で危機管理能力を高めて参りましょう。
本日の月いちメッセージは以上です。季節もだんだん暑くなります。どうぞ心身ともにご自愛いただきながらお仕事にお励みください。

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