「パンデミック以後」エマニュエル・トッド著を読んで(令和3年9月分)

更新日:2021年09月01日

おはようございます。9月1日になりました。今月の月いちメッセージをお送りします。
私の好きな英語の標語にThink Globally, Act Locally というものがあります。地球規模で考え、足元から行動せよという意味の、元々は地球環境保全のための標語ですが、今や様々な使われ方をされています。私は、この標語は基礎自治体で働く我々にこそ相応しい、また大切にしたい標語だなと感じております。新型コロナの第5波、デルタ株が猛威を振るう中、我々は感染予防対策を講じつつ、日々の業務に格闘、それこそAct Locallyしていますが、こんな時だからこそThink Globally、世界の動きを考えることも必要でしょう。
先日私は、エマニュエル・トッドというフランス生まれの歴史家、文化人類学者が書いた朝日新聞出版の『パンデミック以後』という本を読みました。トッド氏は人口や出生率から各国の将来を見通す能力に長けており、ソ連崩壊、米国の金融危機なども予言しています。
この『パンデミック以後』は新書版で短時間に読める内容ですが、とても簡単には語りつくせない深みをもっていると感じました。
トッド氏は冷戦後の世界で進められてきた過度な自由貿易、グローバル経済が、米国であれヨーロッパであれ、国内的にみると弱者を置き去りにして社会に深刻な分断を引き起こしたと批判しており、その問題点がコロナ禍によって一層浮き彫りになったと指摘しています。
そして現時点でコロナ禍の危機をよりうまくコントロールする備えが出来ているのが、実は中国という全体主義の国家であるという事に、民主主義国は強い危機意識を持つべきと主張しています。そのうえで、中国は確かに今や軍事面でも経済面でも世界に大きな影響を及ぼす存在だが、今後の急速な少子化と高齢化により、このままでは対外的には大国でも、国内的には持てるものと持たざるものの二極化が極端に進み、社会の不安定さがより一層増すであろうと予測しています。
さて日本について。トッド氏によれば、日本は少子化高齢化問題に見合う真剣な取り組みは始まっておらず、まだ高度成長期の「幻想」に浸っており、その解決策は、教育を受けた女性が仕事もできるし子どもも持てる新しい社会を確立し出生率の上昇をはかり、そして移民を受け入れる、という二つの課題を同時に進めなければならないというのです。
私は、日本は高齢化への備えについては、制度面で怠っているとは思いません。しかし少子化対策はどうでしょうか。トッド氏のいう「民主主義国であるためにも人口が必要」という主張は全く正しく、残念ながら日本は出生率の上昇についての政策面の見劣りは否めないと感じます。さらに移民をどう受け入れるべきかについても、国民的な合意という視点が全く置き去りにされているように思えてなりません。トッド氏は日本においては、天皇陛下が移民受け入れと出生率の上昇を国民に呼びかけるべきと、インタビューした朝日新聞の記者が仰天するようなことを提唱しています。がしかし、これはまさに今後の人口問題について、我々が自分たちの社会の維持とはどうあるべきか、守るべき、そして能動的に発展させていくべき我々の文化とは何か、そういう観点から移民受け入れと出生率上昇への国民的合意が必要だという提言として、私なりに受け止めました。
さてトッド氏は今回のコロナ禍の封じ込めに成功したのは全体主義の中国だと言っていますが、果たしてそうでしょうか。私はここに、我々の日本のすぐお隣に、コロナ禍の封じ込めに格闘しつつ成功している民主主義社会があることをお伝えしたいと思います。
それは、台湾です。72年前、中国から逃れた蒋介石政権は台湾を支配し、50年前に一つの中国にこだわり国連を脱退し、国際的に孤立を深めました。しかし、33年前の李登輝氏の総統就任以降、台湾は「中華民国」という国号こそ同じですが、社会の内容は完全に変わりました。台湾に住む人々が自ら独裁体制を変革し高度な民主主義社会を実現し、今や多くの人が自分たちは中国人ではなく台湾人であると自覚しています。
そして今回のコロナ禍への対応は、紆余曲折もありますが、見事です。一時は日本と同じく感染が拡大しましたが、先日8月25日に再び感染者0という状況を達成し、一方国産ワクチンの接種も始めています。私は台湾のコロナ対策をみるにつけ、民主主義社会でもやり方次第で優れた危機管理は出来る、と確信しています。エマニュエル・トッド氏と台湾のIT大臣であるオードリー・タン氏の対談が実現したら面白いだろうなと思います。
いずれにしても、日本はこのコロナ禍を経て、対外的にも対内的にも、危機管理体制を再構築し、そして次世代を担う子どもを安心して生み育てられる持続可能な国づくりを何としても進めなければなりません。そして有為転変する世界、厳しさを増す東アジア情勢のなかで、自分たちの民主主義、法の支配が保証された自由な国際社会と国家をいかに守るか、大いに議論しその方向を皆で定めて行かねばならないと感じております。
今日は我が国を取り巻く国際情勢について、極簡単にThink Globallyを語りましたが、我々の眼前に横たわる数々の難問、まずはこれが今なすべき我々の仕事です。Act Locally、頑張って参りましょう。以上で月いちメッセージを終わります。

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