「渋沢栄一に学ぶ」(令和3年11月分)

更新日:2021年11月01日

おはようございます。11月1日、今月の月いちメッセージをお送りします。まずは総選挙全般にわたり携わっていただいた皆さん、お疲れ様でした。代議制民主主義の根幹をなす衆議院議員総選挙も終わり、我が国はまた新たなスタートとなります。専制主義や一党独裁の国家とは異なる、国民等しく一票の権利を有して選挙に参加し、その投票の秘密が守られ、選挙結果に基づいてその後の国政が担われる、という我が国の民主主義の体制は、いかなる批判があろうとも守り続けなければなりません。その選挙を支え、円滑に執行されるための事務に携わっていただいた皆さんに、感謝を申し上げます。
さて本年は塙保己一没後200周年ですが、その塙保己一を尊敬していた渋沢栄一が大きく脚光を浴びている年でもあります。先日、埼玉県市長会主催の講演会で、渋沢栄一の玄孫つまり孫の孫にあたる渋沢健氏のお話を聴く機会がありましたので、その内容についてかいつまんで紹介します。
渋沢健氏、以下「健氏」と紹介しますが、長らく米国の金融界で活躍された方で、現在では高祖父の栄一の生涯、思想、業績を広く内外に紹介する活動をされています。
講演は渋沢栄一の遺した「言葉」をひもときながら、日本の将来のあるべき姿を考えるという内容でした。最初に紹介されたのは、栄一が名付けた「銀行」についての解釈です。栄一は「銀行は大きな河のようなもの。銀行に集まって来ない金は溝にたまっている水やポタポタ垂れている滴と変わらない」と述べ、一人一人のお金を集め、それを大河のようにして世の中の ために役立てる「合本主義」を唱えました。この合本主義という言葉、そこに込められた意味を今こそもっと見つめ直すべき、と健氏は唱えます。
現在の経済社会において、企業は株主ばかりでなくステークホルダーつまり広い意味での利害関係者、顧客や地域社会の利益を考えなければならない、これをStakeholder Capitalismと言いますが、健氏によれば、これはまさに渋沢栄一が唱えた「合本主義」だというのです。
栄一は大正五年に『論語と算盤』という有名な著書を遺しています。ここで栄一は「正しい道理の富でなければその富は完全に永続することができない」「論語と算盤というかけはなれたものを一致させる事が今日きわめて大切」と言葉を遺しています。
また栄一は「富の分配平均は空想であり、才能能力、努力の有無、全員が同じ結果になることは無いだろう」と、いわゆる社会主義的な思想を批判しています。しかし500の会社を興すと共に、600もの社会事業をも起こしている、つまり機会の平等を重視しつつも、社会的弱者の救済と自立に向けた支援も惜しまなかったわけです。
健氏は、栄一の行動原理はたった一つの言葉で表現できると述べました。それは「と」の力を活かしたということです。「論語『と』算盤」という、一見相容れない、関係がないものを「と」という言葉でつなげたということ、これは道徳と経済の合一です。そして500の企業「と」600の社会事業、今風に言えば成長と分配ということでしょうか。
この「と」を重視する考えと、ある意味反対なのが「か」を重視する考えです、論語か算盤か、成長か分配か、物事に白黒つける、善悪で切り分ける考えです。しかしこれでは事物の存在する状態を見比べるだけで、そこから何かが生み出されることはない、それに比べると「と」は一見矛盾するが融合しそこから何かが生み出される、優劣ではなく両立、そして創造性があるわけです。
日本人の最大の発明の一つに、カレーうどんがあると健氏は言いました。カレー「と」うどん、異国からの全く異なる文化を鍋に入れ、ダシを入れて調和させてしまった、日本人の「と」の力の感性がフルに活きた食文化だそうです。
しかし、と健氏は言います。もしも日本にうどん省とカレー省という二つの異なる省庁、組織があったら、絶対にカレーうどんは生まれなかっただろう、と。これは笑えました。
健氏によれば、日本は金融業についてもそうで、金融の制度について政府は様々な壁を作りたがる、結果として日本の金融機関が過去30年間で世界一になったことはない、他の業種でも壁がある、壁があるのはそれなりの理由があるからだが、しかし時代の変革期には、そこで思考停止してはいけない。まさに今の世は様々な壁を乗り越える壮大な「と」の力が必要な時であるというのです。
この後、健氏はSDGsの話や日本の近代以降の社会の歴史的周期性の話をされましたが、ここでは割愛します。いずれにしても、我々は日常どちらかと言えばあれかこれかという「か」の思考回路で考えることが多い。しかし「と」は一見矛盾したものをつなげ、新たなものを生み出す創造性ある作業です。
私なりに解釈すると「か」とは何となく欧米風な一神教的な物事の考え方、正義をかざして善悪を分ける、それにくらべると「と」は、日本の多神教的風土が生み出した考え方だなと感じます。神と仏、日本人はどちらも重要視します。
閉塞感の漂う現在の日本社会ですが、「か」でなく「と」の力を活かし、新たな時代を切り拓きたい、そんな意欲が沸いた渋沢健氏の講演でした。
本日の月いちメッセージは以上です。これから寒くなって来ますし、新型コロナの流行は下火になりましたが、引き続き第6波には警戒し、共に頑張って参りましょう。

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