正常化バイアスについての実体験(令和5年6月1日)

更新日:2023年06月01日

皆さんおはようございます。6月1日、今月の月いちメッセージをお送りします。
明日2日で、昨年の雹(ひょう)の被害から1年となります。全く思いもかけない天災に、様々なことを学んだ1年前でした。今年の梅雨も気象災害が心配され、また地震が相次ぎ不安の声もあがっています。災害に限らず、様々な事件や事故にどう対応するか、我々は常に、危機管理というものを意識して業務に当たらねばなりません。そこで今日は、危機に遭遇した人間の心理状態に起こりやすい「正常化バイアス」、これは危機に遭遇しているにもかかわらず、その危機に向き合わない心理状態を言いますが、このことについて、先月の私の実体験をお話したいと思います。
5月3日、私は秋山十二天社に出かけました。標高364メートルの山の上に十二天の社と鐘撞堂があり、5日までがお祭りの期間で、山のふもとの社務所では参拝者にお札を渡しています。社務所の近くには農業用ため池の十二天池があり、風光明媚な場所です。
お祭りのご案内をいただき、当日運転手の運転で向かいました。集落を抜け新緑の中を走り、間もなく社務所というところで、左手に十二天池が見えました。すると池に黒い物体が浮いているのです。いや浮いているというより何かが沈んでいて、一部が湖面から出ているようでした。「あれ、なんでしょう」「市長、あれは車ですね」「あ、ほんとだ…」確かに黒いワゴン車のようでした。そしてその瞬間私の口からでた言葉は次の通りです。「大変だな、だいぶ前から沈んでいるんかな」。社務所に着いたら聞いてみよう、と思いました。
社務所の前で車をおりて「こんにちは」。すると血相を変えた女性が社務所から出てきて「市長さん、さっき車が池に落ちて、中に人が入っているって!」。驚きました。慌てて、ため池の方に駆け寄って見てみると、黒いワゴン車は沈みかけ、その横で若い男性とやや高齢の男性が泳いでいます。よく見ると車の後部ガラスが割れています。私のいる道路の下は崖になっており岸辺に人がいて、泳いでいる二人に何か叫んでいます。「ああ、助かってよかった」、そんな声が聞こえてきました。
後で分かったのですが、私が到着する前に、黒い軽乗用ワゴンがブレーキの踏み間違えで暴走し、柵をなぎ倒して崖を滑り落ち、ため池に突っ込み、池の中ほどまで進んで沈み始めたということ、たまたま友人と来ていた青年がとっさに服を脱いで飛び込み、泳いで車にたどり着いたのですがドアが開かない、すると社務所から駆け付けた男性が大きな木づちを池に投げ入れ、青年がその木づちで後部ガラスを割り、車中の高齢男性を救助した、ということでした。私が社務所から駆け寄って池を見た時は、まさに救助された男性と青年が泳いで岸に向かう途中だったのです。
ほどなく二人ともずぶ濡れで岸に上がり、救助された高齢男性には社務所の皆さんが暖を取らせました。これもたまたま偶然、飯塚県議が私の後から到着し、県議から消防と警察に連絡。駆け付けた救急隊と警察官は、救助された男性の命に別状ないことを確認のうえ、事情聴取を行いました。その場にいた我々一同、救助した青年の勇気と、木づちを投げた男性のとっさの機転を称えました。二人ともその後、児玉警察署、児玉郡市広域消防本部から表彰されています。
話がここで終わればめでたしめでたし、ですが、実は自分自身を振り返ると、あれは正常化バイアスだったと思うことがあります。それは、池のなかの物体を初めて目にして、それを車だと認識した瞬間、口をついて出た言葉「大変だな、だいぶ前から沈んでいるんかな」。まさにこれです。あの時、車がたった今沈んだとは全く思わなかった自分がいました。
確かにその時の我々の視界には、慌てているような人の姿が見えませんでしたし、あの車は何なのか、社務所に行って聞こうという判断も間違いではなかったと思います。しかし自分の心理状態を思い返すと、車一台が沈んでいるという異常な事態であるにもかかわらず、いま目の前にある光景は危機的な状況ではないんだ、というまさに正常化バイアスなるものが起きたとしか言いようがありません。
人間は思いもよらぬ危機に遭遇した時、勝手に都合の良いことを想像し、その危機に向き合わない心理が働く。改めて皆さんにも、私は大丈夫、ではなく、人間にはそういうくせがあるんだということを心に留めていただきたいです。何か変だなと思った時、正常化バイアスで見ていないか、チェックする気持ちを持つことが、まずは危機管理の基本、改めてそのことを認識させられた私自身の実体験を、語らせていただきました。
本日の月いちメッセージは以上です。体調に気を付けて今月も頑張って参りましょう。

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