訂正する力(令和5年12月1日)

更新日:2023年12月01日

おはようございます。12月1日、月いちメッセージをお送りします。令和5年も歳末となりました。令和になって早5年、21世紀もあと2年で四半世紀が過ぎます。先日、先行きの不透明な今の時代を見つめたある本を読みました。批評家の東浩紀氏が書いた『訂正する力』という朝日新書の本です。書き出しトップに「日本にいま必要なのは『訂正する力』です」とあるこの本を読んで、感じたことを今日はお伝えしたいと思います。
まず冒頭の著者の言葉を要約して紹介します。
日本は魅力的な国だが、様々な分野で行き詰っている、政治は変わらず、経済は沈んだまま、メディアは大胆な改革が必要と叫ぶが実際は何も進まない、人々は不満を募らせている、もう日本はダメなんだろうか、僕はそう思わない。必要なのはトップダウンによる派手な改革、ではなく、一人一人がそれぞれの現場で現状を少しずつ変えていく地道な努力だと思う。
そのような小さな変革を後押しするためには、今までの蓄積を安易に否定するのではなく、むしろ過去を再解釈し、現在に生き返らせるような柔軟な思想が必要だ。物事を前に進めるために、現在と過去をつなぎなおす力、それが「訂正する力」である…。
このような書き出しでこの本は始まります。
この「訂正する力」、実は今の日本人はこれを嫌う傾向が強く、例えば国会を見ても政治的な議論が成立していないと著者は言います。私から言わせれば様々な面で与野党の妥協はあるのですが、確かにそれは表立っていないし、マスコミも世論も、妥協なるものをあまり歓迎していないようです。むしろ対立が先鋭化している方がニュースになるし、筋が通っていて良いとされる、当の国会議員も、表舞台では閣僚の過去と現在の言動の矛盾ばかりを執拗に指摘する方が多いです。
ネットを見ても、有名人が従来の主張を変えただけで炎上することが日常茶飯事です。議論が進むためにはお互い変わる用意がなければいけないのに、自分も相手も変わってはいけないと、強迫観念のように思っている、これは確かに今の日本では強い、自分もそう感じます。著者の言う通り、それではしかし世の中はまことに硬直したものにしかならない。もともと日本にはこの「訂正する力」はあったし、今もある、そう書いてありました。大事なのはこれまで常識とされてきたことについて、「実は…だった」という内容の新たな視点の発見があること、過去を否定するのではなく、過去からの常識を新たな解釈により訂正し現在に活かす、具体的な事例は時間が無いので紹介しませんが、そういう営みが大事だと著者は述べています。
振り返れば私自身も、まさにこの「訂正する力」の積み重ねで今日まで来ていると感じます。私は市役所の庁議等会議のなかで、間違いだと分かった時に訂正する勇気を持とうと常々言ってきました。これは元々は過去において直面した、不適切な事態の収拾の経験から、その最も重要な心構えを説いているつもりなのですが、実は広く言えば、過去からの事業の不断の見直しをはかり、不適切でないにせよ改善すべき点が見つかれば、自分の発見であろうが他人から(誰であろうと)指摘されようが、躊躇なく訂正する、という姿勢で臨みましょうということです。
このような意識は多くの心ある職員の皆さんも共有しているものと思います。以前こうだったからそのまま、ではなく、変えるべきを変えようとする提案が様々な部署から起きているのは喜ばしいことで、もっと増えて欲しいと思います。
その上で言いたいのですが、この改善、訂正する、ということは、「これで良い」ということはない。常に意識して臨まなければならないものです。私自身あるいは皆さんも知らないところで、今も不適切な事案が進行しているかもしれない、そういう事態を見極め正すことも大事ですし、今良かれと思ってやっていることが実は惰性ではないのか、あるいは本当は訂正すべきことなんだけれど、何かを恐れて訂正しないままのことは無いか、常にチェックが必要です。人間は不断の意識付けをしないとつい惰性で訂正しない方に傾く、注意せねばなりません。この訂正する力を意識して、少しでも物事を改善していく、私はそれが世の中を良くして行く原動力だと思っており、今回この本に出合って、まさにその意を強くしたところです。
明治元年から第二次大戦の敗戦までは約77年間でした。敗戦から今日まで今年で78年間が経ちます。きしんだ世の中そろそろリセットをという気持ちを多くの人が抱いているでしょうが、過去の二回の転換点と全く異なるのは、日本は高齢化社会、そして民主主義社会、いわば成熟した社会になっているということです。自分とは関係ないところのドラスティックな変化に期待するのではなく、自分の身近で過去と未来をつなぎながら、一人一人が少しずつ世の中を良くするための、この「訂正する力」。著者の東氏の見解に、私も共感するところ大でした。
市役所は住民に一番身近な行政です。我々が不断の意識を持って訂正することを恐れず、力を発揮していくことで、世の中を少しでも良い方向に進めることができれば、そう思い、お話させていただきました。
以上で本年最後の月いちメッセージと致します。年末、健康には充分留意して頑張って参りましょう。

この記事に関するお問い合わせ先

企画財政部秘書課秘書係
〒367-8501
埼玉県本庄市本庄3丁目5番3号
電話:0495-25-1154
ファックス:0495-21-8499
メールでのお問い合わせはこちら