『葉隠』を読む(令和6年12月2日)

更新日:2024年12月03日

おはようございます。12月2日、今月の月いちメッセージをお送りします。
今年の仕事始め、皆さんの前で掲げた標語は「誠」でした。この11ヶ月を省み、あと1ヶ月もこの「誠」にかなう自分でありたい、市役所であって欲しいと願っています。
世間では、残念ながら「誠」とはほど遠い出来事が多発していると感じるのは私だけではないでしょう。とはいえ、自分を棚に上げ、これ見よがしに他人の非をあげつらうのは本当の「誠」ではない、むしろ人の振り見て我が振り直せ、そういう謙虚な姿勢こそ「誠」に通じるのではないか、とも思います。
だからと言って、余計な事を言わずただ黙っていれば良いかというと、それは違う。自ら正しいと思うことは、信念を以て相手に伝えるべき、ただその伝え方に「誠」があるかどうか、ということなんだろうと思うのです。色々と申し述べましたが、今日はこの「誠」を考える上で、一冊の本を紹介します。
江戸時代、佐賀の鍋島藩に山本常朝(つねとも)、出家して「じょうちょう」という名の藩士がいました。彼は『葉隠』という、後世武士道の鑑と称された著書を遺しています。およそ今とは全く価値観が異なる時代の書物で、そのままでは我々の感覚にはそぐわないものです。しかし人間の生き方や仕事の仕方という点において、その意味するところに共感し教えられる、そんな記述も多くある書物です。
現代においても様々な口語訳や解釈本が出ており、私も何冊か読んだだけですが、以下、内容をかいつまんで紹介します。
まずこの『葉隠』の根底には、私心、つまりわたくし心の多い勘定高い人間を徹底的に嫌うという姿勢が貫かれております。「勘定高い人間は時として卑怯になる、なぜなら勘定は損得を比べるもので、つねに損はしたくないという臆病さが頭から離れない、学問ができる人間も、才能や弁舌で本心の臆病さを隠す場合が多い、これにだまされるな」と言い切っています。
また、人をいさめる、諭す場合の心得も「相手が自分の言葉を受け入れるか受け入れないかを見極めずに、簡単に意見をするのは悪口をいうのと同じ。相手と心を通わせ、お互い欠点を直そうという間柄になってこそ忠告は効く」と。そしてここでも「俺が、私が忠告してやった」などという自己宣伝する事を戒めています。なるほど、「誠」の忠告とは難しいものですが、その際は私心を捨てよ、というのは真理でしょう。
さらに、どのような武士が鍋島藩のために役に立つのかという問いに対しては、才能があるとか、弁舌がさわやかとか、そんなものは二の次で、ただただ鍋島藩と主君への熱い思い、損得勘定抜きの思いこそが最も大切である、と言い切っています。ここは私も共感するところで、私自身、この鍋島藩と主君という文字を、本庄市と市民、と置き換え、熱い思いを胸に抱いております。
そして仕事への向き合い方として、「鍋島藩を自ら一人でも背負って立つという意気込みで仕事に取りかかれ、自分の与えられた仕事は徹底的にやれ、仕事には苦労は付きもの。好きだからやる、嫌いだからやらない、三日坊主、これは使い物にならない」と、怠け心を厳に戒めているのは私にとっても耳の痛いところですが、やはり徹底しています。
この、自分一人でも組織を背負って立とう、という人物、これも私心の無い大きな気概を秘めたる者こそ本物で、損得勘定が先に立つ口先だけの小利口者はバツだとされます。なかなか含蓄の深い、そして己を照らしてどうか、考えさせられる内容です。
さて、この『葉隠』の著者である山本常朝が生きた時代は、戦国の世が終わり太平の世が始まって100年、武士が刀を使わない役人となり、世の空気もかなり緩んでいたようです。その風潮を嘆き、戦場ではない畳の上での武士の奉公とはこうあるべきと、訪ねてきた後輩の武士に語り、しかも公にするなとされた口述の書、だから葉隠という名もついたと言われています。
意外に当時は、今の時代と似ているかも知れません。令和では時代遅れとされる、昭和の猛烈社員の心得を聞かされている感もあります。しかし、この『葉隠』の根底にある、「誠意ある生き方、仕事の仕方とは何であるか」という問い、これはいつの時代でも普遍的なものではないでしょうか。
『葉隠』で最も有名な言葉は、「武士道といふは死ぬ事と見付けたり」です。これは、自分は有限なのだから一瞬一瞬を徹底せよ、という意味です。武士の徳目として掲げられている「忠」や「孝」も理屈で覚えるのではダメで、死にものぐるいで物事に取り組むところに自ずと忠も孝もついてくる、とされます。自分が掲げた「誠」、これも理屈ではなく自らの立ち居振る舞いによって「顕れて」(あらわれて)くるもの、私は『葉隠』を改めて読み、そう感じました。
本年1年間掲げてきた「誠」について、今日は佐賀鍋島藩の山本常朝著の『葉隠』を紹介しました。ここまで聴いてくれて有難うございました。年末です。気を引き締めて仕事に取り組んで参りましょう。

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