若山牧水の歌におもう(平成21年3月分)

更新日:2020年10月01日

おはようございます。今月の月いちメッセージを送ります。花粉症の季節になりました。体調に気をつけて年度末お仕事頑張ってください。
さて、皆さまは若山牧水をご存じですか。明治から昭和にかけての我が国を代表する歌人です。先日、「若山牧水 ~その歌と人生の魅力」という演題で、伊藤一彦さんという方の講演を聴きました。伊藤さんは宮崎県にある「若山牧水記念文学館」の館長で、ご自身も歌人として活躍されています。今朝はとても感動的だったその講演について皆さまにお話します。
年配の方は若山牧水に親しんだ方も多いかと思いますが、私自身は牧水について予備知識はほとんどありませんでした。唯一覚えていたのが、学校で習った
「幾山河(いくやまかわ) 越えさり行かば 寂しさの 終(は)てなむ国ぞ 今日も旅ゆく」
というあの有名な歌であり、旅と酒を愛した歌人という印象が記憶にあります。
お酒を愛した歌としては
「白玉の 歯にしみとほる 秋の夜の 酒はしづかに 飲むべかりけり」
これはご存じの方もいるかと思います。恥ずかしながら、私はこれが牧水の歌だということを、今回初めて知りました。実にいい歌だと思います。
旅を愛し、酒を愛し、そして大変熱烈な恋も経験し、家族を愛し、数多くの歌を残して昭和3年、44歳の若さで亡くなるのですが、伊藤先生によれば、牧水の一生を突き動かしていたものは、次の歌に表れているというのです。
「けふもまた こころの鉦(かね)を うち鳴らし うち鳴らしつつ あくがれてゆく」
ここに出てくる「あくがれ」とは「あこがれ」の古語ですが、古語辞典によれば「心身が何かにひかれて、もともと居るべき所を離れてさまよう」意味だそうです。
牧水はその一生を通じて「あくがれ」の強烈な人でした。幼いころから遠くのものを見て、強く胸をときめかす少年だったようです。
特に海と山への思いは強烈です。
「浪(なみ)浪浪 沖に居る浪 岸の浪 やよ待てわれも 山降りて行かむ」
「問ふなかれ いまはみづから えもわかず ひとすぢにただ 山の恋しき」
これらは、海や山への強いあこがれがなければ出来ない歌です。
恋愛も熱烈です。
「山を見よ 山に日は照る 海を見よ 海に日は照る いざ唇(くち)を君」
詠むほうが恥ずかしくなるような強烈な歌です。
牧水は宮崎県の寒村の医者の家に生まれましたが、祖父は今の所沢市の出身です。いわば他国者の3代目であり、故郷や家族の愛情に包まれて育ちながらも、自分のルーツはどこなのかという思いが、彼をして少年時代から愛する故郷を離れ、外の世界を求めてやまない性格にさせたのだと、伊藤先生は解説されていました。今いるところを愛しつつ、よその世界にあこがれる二面性は、旅に出ても変わらなかったようです。
「秋かぜの 信濃に居りて あを海の 鴎(かもめ)をおもふ 寂しきかなや」
願って訪れた信州の秋景色に満足しながらも、心は一方で真っ青な海の鴎にあこがれてしまう、そのどうしようもない魂を、寂しいと率直に歌い上げているのです。
また牧水は、ユーモア、おかしみを大切にした歌人でもあります。酒がとにかく好きで、早死にしたのも酒のせいですが、酒に溺(おぼ)れる自分をユーモアを持って眺めているのです。
「妻が眼を 盗みて飲める 酒なれば 惶(あわ)て飲み噎(む)せ 鼻ゆこぼしつ」
「足音を 忍ばせて行けば 台所に わが酒の壜(びん)は 立ちて待ちをる」
奥さんにきつく止められていたのでしょう。しかし、飲まずにはいられない、しかも酒が自分を待っているというのです。
以上のような伊藤先生の講演を聴いて、私はすっかり牧水ファンになってしまいました。みなさんの中にも、山や海を一日中見ていて飽きない方もいると思いますが、実は私もそうです。もっとも私の場合は、大海原や山々を眺めて遠い世界に思いをはせたり、ちっぽけな自分を見つめることで、かえって自分の勇気を湧かせるという、いささか俗っぽい性格であり、牧水の境地にはとても及びません。
ともあれ、牧水の魅力、すごいところは、自分自身の「あくがれ」をどこまでも追求していったところにあると思うのです。
「けふもまた こころの鉦を うち鳴らし うち鳴らしつつ あくがれてゆく」
時代は混迷し、殺伐としております。自分たちの「あこがれ」を見失いがちな今、牧水の歌は、とても大切なことを投げかけているように思いました。
20年度の月いちメッセージは今回が最後です。私たちもそれぞれの「あくがれ」「あこがれ」を大切に、仕事そして人生の幾山河を越えて、励んで行きたいものです。それでは年度末、皆さま元気で頑張ってください。

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