年金法案改正 脱退一時金制度の改善にあたって(令和7年6月2日)
皆さんおはようございます。6月2日、今月の月いちメッセージをお送りします。
先日5月30日に衆議院において年金制度改革関連法案が通過し、今国会で成立する見通しとなりました。報道では「基礎年金の底上げ措置」がクローズアップされています。いわゆる就職氷河期世代が今後低年金になるかも知れない心配に応える、という点で今回の改正を評価する声がある一方、給付水準を上げるその財源として、1兆から2兆円程度の国庫負担の確保も課題とされています。
一方、マスコミはほぼ取り上げていませんが、実は今回の法改正では外国人の脱退一時金の制度について大きな改善がありました。私自身この問題に昨年から取り組んでおり、大変感慨深く感じると共に、引き続き課題に向き合わねばならないと心しているところです。本日はこの点についてお話します。
元々この脱退一時金制度は、日本滞在中に支払った年金が帰国によって掛け捨てになってしまう外国人短期滞在者の不公平感の解消を目的に創設されました。6か月以上の被保険者期間に応じて一時金の形で支給され、現在の制度では支給上限が5年。受給するとそれまでの被保険者期間は無くなります。
実はこの脱退一時金制度は、年金制度を所管する厚生労働省、在留資格を管理する出入国在留管理庁それぞれの制度の狭間にあって、創設当初から外国人の在留資格がいかなる形であれ一定の条件を満たせば支給される仕組みとして今日まで来てしまい、例えば再入国許可付きの出国の場合でも、受け取ることが可能となっています。つまりある外国人が出国に当たって脱退一時金を取得し、再び日本に再入国して年金制度に加入し、また出国に当たって脱退一時金を取得する、これを繰り返すことができるのです。常識的に考えてこれは不合理です。
この脱退一時金、これまで一体どのくらいの人に支給され、うち再入国した人はどのくらいいるのか、公開されている国の社会保障審議会年金部会の資料によれば、脱退一時金の支給決定件数は、令和4年3月までの過去10年間で約72万件。うち例えば令和4年度の脱退一時金受給者の出国形態を見ると、出国した件数が94,266件、うち再入国許可を得ていた件数は22,803件です。4人に1人が再入国しています。
本来帰国する人の不公平感を無くすために創設された制度なのに、再入国しても支給を受けられる・・・この制度矛盾がどのような事態を生んできたかというと、例えばある経営者が外国人を雇い、5年経ったところで出国を促し、その都度脱退一時金を受給させ、正社員にさせず長期にわたって雇用するという、制度の極めて不適切な運用、外国人に対する不当な扱いと言える事案も合法とされてきたのです。また、脱退一時金を受け取るとそれまでの被保険者期間は消滅し、仮に再入国して年金加入しても、その人には10年分の受給資格がありません。一方脱退一時金は6か月以上年金保険料を払えば受給できる、こうして出国と再入国を繰り返して都度脱退一時金を受け取っていくと、やがて無年金、低年金の状態に陥る、そんな外国人高齢者が増えていくことが予想されます。資産が無い場合、各自治体において今後生活保護の準用を受ける存在にもなりかねず、自治体財政に大きな影響を及ぼしかねません。本庄市も例外ではありません。
昨年より私自身、有志の国会議員や地方議員と連携し、この問題の放置を強く懸念し、当時の全国市長会の立谷会長のもと、厚生労働省との協議の場において社会文教委員長として意見を述べ、全国市長会から国に対する意見書も出し、当時の武見厚生労働大臣にも面会し、制度の改正を強く求めて参りました。
この度多くの関係者の努力が実を結び、今般の法改正によって、再入国許可付きで出国した外国人には、当該許可の有効期間内は脱退一時金を支給しないこととする、と明確な線引きがなされました。再入国許可付きの権限を行使したいなら脱退一時金は出さず、むしろ将来の年金受給につなげようということです。極めて明快な法改正となったことを歓迎し、全国市長会として声を上げてきて良かったと思いました。
この法改正は大きな一歩ですが、もちろん引き続き問題も残っています。実際の施行は公布から4年以内の政令で定める日とされていますので、可及的速やかな施行が求められます。そして実際の施行で1つの区切りがつくとはいえ、これまで脱退一時金を受給しながら再入国を繰り返して来た人々を巡る課題は依然として横たわっています。政府による更なる実態調査と、無年金外国人が増大するかも知れない事態にどう備えるか、国と地方の更なる協議が必要です。以上、年金の脱退一時金を巡る法改正について、お話いたしました。
さて先月も市役所、これは本庁でも支所でもその他の施設でも窓口において様々な出来事があり、現場の職員の皆さんも苦労が多かったと聞いています。そんな皆さんの存在を念頭に置き、日本人外国人を問わず、誰もが住みやすく真面目な人が馬鹿を見ない、公正公平な地域社会の実現を目指して、市長として、いただいている全国市長会のお役を活かし、基礎自治体の声をあげて参ります。
以上で今月の月いちメッセージを終了します。今月も身体に気をつけて頑張って参りましょう。
更新日:2025年06月03日