組織は誰のためにあるのか(令和7年11月1日)
おはようございます。11月になりました。今月の月いちメッセージをお送りします。まずは本庄、児玉の秋まつりに携わった皆さん、大変お疲れさまでした。素晴らしいお祭りでした。ありがとうございます。
さて、今月のメッセージのお題は「組織は誰のためにあるのか」です。
11月1日、私はお隣の神川町で開かれた合併20周年記念式典に出席しました。
神川町というと、合併当時の町長であり、現在は名誉町民の田村啓(たむら・はじめ)さんがよく口にされていた「ぬくもりのある行政」という言葉を、私は思い出します。
田村さんは平成22年2月まで町政を担われました。私は4年間、広域圏の運営などで多くのご指導をいただきました。
ある懇親会の席で、私は田村さんに「ぬくもりのある行政」とはどういう意味かを尋ねたことがあります。田村さんの答えは正確には覚えていませんが、たしか次のようなお話だったと記憶しています。
「行政は“みんなのため”と言いながら、困っている一人の心にさえ寄り添えていないことが時々ある。だからこそ“人に寄り添う、温かみのある行政であってほしい”という思いを込めている」と。まだ市長に就任して間もなかった自分でしたが、今でも印象に残っていますし、大切にしたい教えと受け止めています。行政の仕事は、市民全体の幸福のために行われます。個々の要望への対応は、それが私的利益ではなく公共の利益にかなうかどうかを基準に判断されるべきであり、それは当然のことです。
しかし現実には、これは何とかしなければという課題であっても、前例や公平性を重んじるあまり、制度上すぐに対応できないケースも少なくありません。新しい課題に対して機動的に動くことが難しいこともあるでしょう。そうした中、制度の狭間にあって困難な状況に置かれる方々が生まれてしまう、そんなことを目の当たりにした人も多いと思います。
それでも、多くの職員は真摯に向き合い、制度の限界がある中でも「人としての思いやり」や「いたわりの言葉」で寄り添って来ていると思います。若い職員の皆さんにも、ぜひこのような姿勢を大切にしてほしいと思います。ときには厳しい言葉を受けることもあるでしょう。しかしその人の背景には、不安や孤独、喪失感が潜んでいる場合がほとんどです。
もちろん、以前から私も言っているように、理不尽な要求には時に断固たる対応も必要です。その上で申し上げますが、行政には一にも二にも「傾聴」が大切なんだろうと思うのです。相手の話を丁寧に聴き、気持ちを受け止める。たとえ制度上の支援が難しくても、心を和らげ、前に進む力を取り戻すきっかけになるかもしれません。それこそが“寄り添う行政”だと思います。
私は最近、「正確な情報提供」と「人に寄り添う気持ち」の「両立」がますます大切だと感じています。
法令に照らして正確な情報提供を行うことは当然ですが、「どうしたら行政が責められないか」という思考だけになっていないか。そこに注意が必要だと思うのです。
もし「市民に寄り添う表現をすると誤解されるかもしれない」と感じる場面があるなら、できないことをできるように言うのは誤解を招きますが、不安を受け止める言葉は言えるはずです。
「心配なお気持ちはよくわかります」「一緒に考えていきましょう」そうした言葉が、正確な情報と共に、市民との間の信頼を育てると思います。
そして市民の不安に寄り添うことは、決して寄り添った職員の責任にはなりませんし、なってはいけません。なおかつ、対象者の方の不安が市民全体に共通するものであるなら、これは行政としてしっかり取り組むべき課題です。
具体的な事例を挙げませんが、どうか皆さん一人ひとりが、自らの仕事を通じてこのことを考えてみてください。
経営学の父と呼ばれるピーター・ドラッカーは次のように言いました。
「組織は放っておけば、必ず内向きになる。」どんなに志の高い組織でも、時間とともに外の変化よりも内部の手続きや前例、人間関係を優先するようになる・・・市役所も例外ではありません。気がつけば、市民よりも市役所内部の事情を優先していないか・・・常に自問したいところです。
ドラッカーはさらに、「目的は外にあり、成果もまた外にある」と述べました。
行政の目的は、市民の暮らしをより良くすることにあります。たとえ一人でも困っている人の問題を解決できたなら、それは立派な成果です。また、たとえ解決に至らなくても、「一緒に考えてくれる職員がいた」と感じてもらえること自体が、市民の幸福につながります。
市役所という組織は、市民のためにあります。そして、市民のためを思って働き、市民のための成果、市民の幸福を生み出していくことで、その組織は同時に、職員一人ひとりの成長の場にもなる。そう私は思っています。どうかこのことを胸に、日々の仕事に取り組んで行っていただきたいです。今月は市制施行 20周年記念式典が開催されます。より市民に信頼される本庄市役所を目指して、今月も頑張って参りましょう。以上で月いちメッセージを終わります。



更新日:2025年11月05日